“恋でも愛でも”
    『恋愛幸福論で10のお題 Vol.7』 より

〜カボチャ大王、寝てる間に…。[

*最初のお話→ 最初のお話***
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清十郎殿下の傍づき、身の回りのお世話係を任されている瀬那少年が、
ついうっかりという怪我をした。
滋養のあるカリーヤの木の実を採るのにと、
お城の城塞近くにある雑木林まで伸してゆき、
殻の堅くて真ん丸な、
くぬぎの団栗みたいな実を拾いに行ったのだけれども。
落葉樹からは葉の落ちた、ところどころに陽だまりの出来た木立の合間、
何の気なしに歩き回っていたところが、
どこからともなく、細い何かが飛んで来て、
お顔の縁を掠めていったらしくって。

 『…っ、痛っ。』

咄嗟のこととて、そうと口にしはしたものの、
感覚としては ワッとびっくりした方が勝
(まさ)っており。
怪我自体は小さくて、それほど痛くはなかったのだが、

 『セナ様っ?!』
 『いかがなされましたかっ?』
 『あっ、そのお怪我はっ?!』

むしろ、皆さんが揃って慌ててしまわれたのを見て、
大したことじゃあないのに悪いことをしたなぁと、
相変わらずに及び腰な彼としては、
そっちの方を申し訳なく思ってしまったくらい。
早くお手当てをせねばなりませぬ、
木の実拾いは我らにお任せをと言われ、
ついて来てくださってた方々に見送られて戻ったお城では、

 『瀬那様、お怪我をなされたとか。』

一足先に翔ってくださったお人があったのか、
さあさこちらへと
選りにも選って 隋臣長の高見さんが、
自らお迎えくださっての、
てきぱきと女侍の方々へ指示出して下さったのが、
小さなセナには驚かされるやら畏れ多いやら。
清十郎殿下の側近として、
内務大臣と等しいほどのお仕事、こなしておいでのお人だのに、
なんでわざわざと恐縮しておれば、

 『伝令もありましたが、何よりも殿下ご自身が。』

言われて後から知ったのが、
彼らがお出掛けした林というのは、
殿下のお部屋の窓から見下ろせるところだったのだそうで。

 ………ということは?

 “うわわ〜〜っ、
  もしかしてあれもこれも丸見えだったのでしょか。///////”

着いて早々に樹の根っこにつまずいたこととか、
ご覧でしたかと後で聞いたらば。
ツゲの茂みに外套の裾を咬まれてしまって、
こっそり頑張って振りほどいていたところは見たがと、
もっと恥ずかしいことをしっかと目撃されており。

  ……いやいや、それはともかくとして。

 「大したことはありませんよう。」
 「…いや。」

お互いに背中を延ばしやすいようにということか、
スツールを引っ張って来てあったのへと、
それぞれが座って向かい合い、
殿下ご自身が少年の頬っぺの引っ掻き傷を診てくださった。
本当に本当に、
血さえ滲んでいるのかどうか…というほどの浅いそれで。
ただ、

 「眸のすぐ傍ではないか。」

確かに、そこは問題かも知れぬ。
それとそれから、一体なんでまたこんな、
一番に気をつけるだろお顔になんて怪我を負ったやら。
枝が出っ張ってるようだったなら気をつけなさるセナ様だろにと、
辺りを見回して下さった方々が見つけたのが、
仕掛ける場所を限られていたはずの小鳥用の罠だったとか。
当たっても大怪我はしなかろ、茅の茎で作った矢が飛び出す仕掛けを、
誰かが林の中に幾つか仕掛けていたのだそうで。
柔らかい茅の矢だとはいえ、
小鳥を仕留めるだけの威力で飛ぶのだ、当たればそれなりに怪我はするのだし、
目に刺さったら失明の恐れだってあるものなので。
無人の仕掛けを設置する場合は、
ここにあるぞと人には判るように、目立つリボンをつけねばならぬ。
そんな基本の決まりごとを守っていないということは、
もしやして密猟者か、若しくは性分
(たち)の悪い悪戯か。

 「王城間近い城下の周縁で、そのような仕掛けを用いるとは。」

あってはならぬ法度破りでございますればと、
高見さんが厳しいお顔をなさるのも、判らないではないけれど、

 「あのあの、でもっ。今回は大事にはならなんだのですし…。」

もしかして、
そんな法があるのを知らないで、子供がやったことかもしれない。
見つかったのを幸いとして、
これから気をつけなさいと叱るくらいでいいので…と。
殿下の大きな手でお顔を固定されたままながら、
何とかそんな風に陳情したセナへ、

 「大事に至っていたらと思うと、な。」

深みのある落ち着いたお声が、
何でもないことと軽んじるなと、
そんな含みを込めた重さで返される。

 “………あ。/////////”

言葉少なで物静か。
そもそものご気性が落ち着いておいでなので、
あまり激すこともないまま、
冷静に物事にあたられる殿下だと。
大人びた風貌や、出される指示・対処の的確さから、
臣下や朋輩、国民という皆々様から、
そうと謳われ、敬愛されておいでの清十郎殿下だが。

 言葉が少ないのは、不器用でおいでだからだと

そんな一面もまた、間近に侍る者らには知れ渡っていて。
精悍な面差しでおいでの殿下だが、
だからといって、
何につけ鷹揚に受け止めてしまわれる訳じゃあない。
兄上様の起こした騒動では、随分とお心を重くしておいでだったし、
今は今で、

 「本当に…?」
 「はい、もう痛くはありませぬ。」

消毒のお薬というのをちょんと塗られた一瞬こそ、
ひりりと痛かったのではあるが。
もうもう全然支障はないと、
小さなセナがにっこり頬笑んで頷けば、

 「ならば…。」

案じるのは もうよそうと、素直に納得して下さったものの。
まだまだ子供のそれにも似た柔らかさ、
きめの細かい肌目への、
赤い一条の傷はよほどに悪目立ちをするものか。
気になってしょうがないという、
そんな視線をつい向けてしまわれる殿下だったりし。
そちらも“気になります”との意志の現れか、
小さな顎を掴まえていた手が、なかなか離れないのが、

 “あのその……。//////”

セナ本人にしてみれば、
小さな擦り傷より、よっぽどに存在感のある構いつけ。
真っ赤になった耳の先や頬が、
何とも可愛らしいったらない反応であり。
愛しい君を案じてどこが悪いかと、
大威張りなのだろ殿下であるらしいのだが、いかんせん、

 “ご自身の容姿風貌を、
  判っておいでじゃありませんものね。”

どんなに男ズレしたご婦人であれ、
こうまで間近からその冴えた双眸で覗き込まれては、
まま落ち着けというほうが無理な相談じゃあなかろうか。
しかもしかも、
少なからず“好いたらしい”と思っているお人が相手ではねと、
セナの示している愛らしい反応へも、
くすすという苦笑が止まらない高見さんだったようで。


  窓のお外には冬の陽差し。
  まだ少しほどは冷たい風も吹きつけ続けようが、
  平地ではそろそろ、雪が雨へと変わる頃合い。
  お互いへの優しい想い、存分に暖めあってくださいましと、
  遥か彼方まで見渡せる冬枯れの草原が、
  暖かな甘さ、金色に光って揺れていた午後の一幕だったそうな…。





  〜Fine〜 10.01.18.


  *肝心なハロウィン以外へこそ、
   結構お出ましの“かぼちゃ大王”でございます。
   清十郎殿下、セナくんへの心配もいいですが、
   例のケーキは結局無事に焼けたんでしょか?
(苦笑)

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